プラズマローゲンとアルツハイマー型認知症の関係

プラズマローゲンとアルツハイマー型認知症の関係

これまでは予防することや治すことができないと言われていたアルツハイマー型認知症。
その新たな治療法として注目を浴びている「プラズマローゲン」についての研究がおこなわれています。その研究成果と、世界初の発見について紹介します。

研究の始まり、藤野教授の発表した「脳疲労」ってなに?

プラズマローゲンとアルツハイマー型認知症との関係性がわかるきっかけとなったのは、九州大学名誉教授の藤野武彦医師が1997年に発表した「脳疲労」という学説です。
この学説は、メタボリックシンドロームや糖尿病などの「生活習慣病」と言われる病気や、うつ病などの「現代病」は、脳が疲労することで起こるという内容です。

「脳疲労」になるとどうなるの?

人間は勉強や仕事、人との付き合いの中で不安な気持ちになったり我慢するなど「ストレス」を感じることがあります。
そのような「不安」や「我慢」を感じると、脳の動きが鈍ってしまうといった変化が起こります。さらに、心と体の調子をコントロールする「自律神経」の調子までもが狂ってしまう場合もあります。この状態を「脳疲労」と呼んでいます。
ストレスを抱える女性

◇「脳疲労」は解消できるの?

脳疲労の状態になってしまうと脳や体に悪い影響が出てしまいます。
脳疲労の状態になってしまってから解消する方法はあるのでしょうか?
そこで、藤野教授は「脳を疲れた状態にさせない」ために、BOOCS(ブックス)法を考えました。

BOOCS(ブックス)法ってなに?

BOOCS法とは、「脳疲労」の度合いが重い人、軽い人それぞれに合わせた解消法です。
例えば、脳疲労の度合いが重い人には、入院しながら薬を飲んだり、医師の指示のもと脳疲労の度合いが低くなるよう目指します。
脳疲労の度合いが軽い人には、通院と医師の指示を行うといったように、その人に合った方法で脳が疲れていない状態になるよう導きます。

そしてBOOCS(ブックス)法には大切な3つの決まりがあります。
1.健康にいい事であっても、嫌なら絶対にやらない
2.健康に悪くても好きでたまらない、やめられないものについては、とりあえずそのまま続けて禁止しない
3.健康に良くて、自分が好きだと思えることを1つでもいいから始める

体に良いといっても「嫌だな」「辛いな」と思う事は絶対にやらない、体に悪いとはわかっていてもどうしてもやめられない、好きでたまらないものはとりあえずそのままで禁止しない、その代わり自分が好きだと思える健康法を1つでもいいから始める、という考え方なら、年齢や性別に問わずストレスを感じずに無理なくできそうです。

「脳疲労」が改善されたらメタボやうつ病、認知症にはならないの?

年齢や性別に関係なく誰でもできそうな「BOOCS(ブックス)法」で、脳疲労が改善されたらメタボやうつ病などの病気にはならないのでしょうか?

そこで、「肥満や糖尿病のリスクが高い人」4137人を対象に、10年間にわたる調査を行いました。
「BOOCS(ブックス)法」を実践するグループと、一般のグループで比べた結果、「BOOCS(ブックス)法」を実践したグループでは、肥満指数や中性脂肪が下がり、結果として病気の予防が出来たという事がわかりました。

さらに、2つのグループの15年後には驚くべき事実が明らかになりました。
それは、「BOOCS法を続けたことで、肥満症が解消されて、全死亡率が半分になっていた」という事です。
「BOOCS(ブックス)法」は無理なく実践することができるだけでなく、それによって、生活習慣病になりにくくなるという画期的な方法であることがわかりました。

脳疲労によって病気が引き起こされ、その後の最後のコースに1つが「アルツハイマー型認知症」です。
脳疲労が蓄積された結果病気になり、最終的にアルツハイマー型認知症になるという流れなのであれば、脳疲労を軽減させることでアルツハイマー型認知症にも有効なのではないか?と考えつきました。

そして実際に、アルツハイマー型認知症を発症した患者さんが亡くなった後に体を調べたところ、脳の中などのプラズマローゲンがかなり少なくなっていることがわかりました。

アルツハイマー型認知症ってなに?

物忘れ
アルツハイマー型認知症にはいろいろな説がありますが、脳の一部に傷がついてしまい、脳の全体が萎縮する(小さくなる)ことで引き起こされる病気と考えられています。

脳の神経に傷がついてしまったり、脳の全体が委縮する(小さくなる)という症状自体は、ゆっくりと進んでいくため、現在では予防をすることも、治すという事も出来ない病気と言われています。

主な症状は以下の通りです。
 ・物忘れが多くなり、うまく記憶することができない
 ・計算が出来ない、言葉がうまく使えない
 ・着替えの仕方や家電、道具の使い方がわからなくなってしまう
 ・やらなくてはならないことを順序立てて進めることができない
 ・時間や今いる場所、家族であっても誰だかわからなくなってしまう

これらの症状がすべて出るわけではありませんが、認知症の症状がみられる人に多くみられる症状です。

「プラズマローゲン」がカギを握っている?

アルツハイマー型認知症は、現時点で予防をしたり、治すことが出来ない病気ですが、藤野教授らが行っている研究によって、「アルツハイマー型認知症は予防をしたり治すことができるかもしれない!」という可能性が出てきています。

そのカギを握っているのが「プラズマローゲン」という物質です。

それでは、「プラズマローゲン」について順番に説明します。

プラズマローゲンってなに

私たちの体の中で情報伝達に関わっている「リン脂質」は、とても大切な物質です。
リン脂質が足りなくなると、体の中の細胞がうまく働かなくなり、コレステロールが溜まってしまいます。
この状態が続くと、「動脈硬化」や「糖尿病」といった病気へ繋がってしまいます。

このリン脂質のうち18%を占めているのが「プラズマローゲン」です。

プラズマローゲンは私たち人間の体の中だけでなく動物や魚介類の体内にもある自然物質で、人間の体では、脳や心臓などに多く存在しています。

プラズマローゲンはどこで手に入るの?

プラズマローゲンは、基本的には人間や動物、魚介類の体の中で作られます。
プラズマローゲンに関する研究を行う為には、プラズマローゲンを大量に作らなくてはなりません。

プラズマローゲンに関する研究は世界各国で行われていましたが、なかなか進んでいませんでした。

その理由は2つあります。
 1.プラズマローゲンを検出するのにお金と時間が必要だったから
 2.プラズマローゲンを大量に作ることができなかったから

藤野教授らの研究チームでは、この2つの問題を解決する方法を見つけました。
これまではプラズマローゲンの検出に2日間かかっていましたが、それを1時間に検出できるようになりました。

そして、プラズマローゲンは比較的安くて世界中で手に入れやすい「鶏のむね肉」や「ホタテ」から高純度のプラズマローゲンを大量に作ることに成功しました。
鶏胸肉
中でもホタテから作り出したプラズマローゲンは、鶏のむね肉には存在しない「DHA」や「EPA」が含まれているので、より効果があると考えられています。

プラズマローゲンはどんな働きをするの?

プラズマローゲンの働きとして現在でわかっているものは以下の通りです。

1.外から受けた刺激を細胞に伝える物質「シグナル伝達物質」を細胞に運ぶ役割
2.細胞が酸化しないようにする「抗酸化作用」
3.脳細胞の機能や新たに細胞を出現させる

この中でも一番大きな役割として注目されているのが「抗酸化作用」です。
プラズマローゲンは、細胞が酸化しないよう(錆びないように)はなく、細胞の代わりに自分自身が酸化されることで細胞を守っています。

脳は動いた瞬間に疲れます。そして、脳はストレスを受けた瞬間から酸化物質が発生して、酸化が始まります。
この状態が長く続くと、脳の細胞の死滅、脳のネットワークが壊れてしまいます。
それによっていろいろな病気を引き起こすと言われています。

プラズマローゲンは脳が動いた瞬間にぱっと動いて瞬時に脳を守るという働きがあります。

プラズマローゲンはアルツハイマー型認知症に効果がある?

海馬
アルツハイマー型認知症は、脳の中の記憶をつかさどる「海馬」という部分にある細胞にタンパク質の一種である「アミロイドβ」という物質がくっつき、蓄積すると神経細胞が壊れてしまう事で発症することがわかっています。

プラズマローゲンは、アルツハイマー型認知症の原因とされる「アミロイドβ」が溜まってしまうことを抑える働きもします。

実際にアルツハイマー型認知症の患者さんにプラズマローゲンを投与することで、「アミロイドβ」の蓄積を抑え、正常な働きに改善することがわかっています。
改善例 笑顔が見れる

改善例1:アルツハイマー型認知症の88歳女性

「やらなくてはいけないことを順序立てて行動が出来ない」、「うまく記憶することが出来ない」といった症状のアルツハイマー型認知症の患者さんに、プラズマローゲンを1か月投与したところ、読書を楽しんだり、片付けをすることが出来るようになりました。

改善例2:レビー小体型認知症の81歳女性

「頭がはっきりしている時としていない時の差が激しい」、「幻覚が見える」「うつ症状」などの症状が出ているレビー正体型認知症の患者さんの場合は、投与を始めてから2週間で表情も明るくなるだけでなく、相手を気遣うような変化も見えるようになりました。

プラズマローゲンはうつ病に効果がある?

うつ病とは、眠ることができない「不眠」の症状や、「食べたい」「眠りたい」と言った欲求が少なくなってきている身体的な症状と、憂鬱な気分で落ち込んでしまったり、わけもなく涙が出てしまったりといった心の症状が特長の病気です。

そしてさらに最近の研究では「脳が炎症」することによって引き起こされているという事もわかっています。

プラズマローゲンは、アルツハイマー型認知症だけでなく、脳の神経炎症に関わる病気にも力を発揮する可能性があると言われています。

プラズマローゲンは記憶・学習機能を向上させる?

脳の中のプラズマローゲンを減って認知症の状態になったマウスは、記憶・学習機能がほとんど働かなくなっていることがわかっています。
このことからプラズマローゲンと記憶・学習機能には密接な関わりがあることがわかります。
脳の働きを向上させる
そしてプラズマローゲンは、「記憶・学習能力を向上させる」という事も実験でわかりました。
正常な2匹のマウスを使って「モリス水迷路」という記憶と学習の能力をテストする方法で実験を行いました。

その結果、プラズマローゲンを6週間投与したマウスは10秒で水迷路をクリア出来たことに対して、何もしていないマウスは同じ回数を繰り返したにも関わらずクリアまでに30秒もかかってしまいました。

このことからプラズマローゲンを投与したマウスは、何もしていないマウスに比べて記憶・学習能力が向上していることがわかりました。

世界初の発見!プラズマローゲンが細胞を新しく作る!

今回の研究で最大の発見となったのが、「プラズマローゲンが神経細胞を新しく誕生させる」ということです。
正常なマウスの神経細胞は申請が新しく生まれているのに対して、炎症刺激を与えたマウスの神経細胞は、神経が新しく生まれない為衰えてしまいます。
しかし、プラズマローゲンを投与したところ、正常なマウスと同じくらいの状態へ回復したことがわかりました。

新しく神経細胞を誕生させるということは、「壊れた細胞を治す」という治療が必要なくなるため、アルツハイマー型認知症の新しい治療法が生まれたと言えます。

プラズマローゲンの未来、藤野教授からのメッセージ

現時点で80%くらいの割合でプラズマローゲンを他のいろいろなものに使うという事が可能だと考えられている。残りの20%については、研究者として非常に興味深い「プラズマローゲンがどういう経路で記憶・学習機能を向上させるのか」という点を知ることです。
そして、免疫系の病気や自律神経系の病気、メタボなどの病気にどうやって繋がっていくのか、という事を証明していく必要があります。
これは九州大学のチームだけで行うということではなく、日本全国、世界各国の科学者と協力していくことが必要だと思っています。

参考文献・動画